ムクゲアカバナ (ススヤアカバナ)  

アカバナ科 Onagraceae
比較的最近に渡り鳥により自然帰化したと考えられる種。
丈は0.8-1.4m。全体に開出した毛が非常に多く、茎や葉の両面に密生し、灰緑色に見えます。茎は固く、基部は半ば木質化します。葉は長楕円状披針形、先端は尖り、基部は円形、茎は抱きません。
花柱先端は4裂し、それぞれ棍棒状で直立しますが、接して付いて1つに見えることが多い。

 ススヤアカバナの名が付けられたサハリン産の標本がエゾアカバナと判明したため、ムクゲアカバナと改名された。(日本の野生植物3)

※2 千葉県の自生記録がなかったため、2014年の写真のものについては、2014.7 千葉県立博物館にて本種であることの確認をいただきました。

 

2020.8.5 更新
  • 全体
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  • 花2
  • 花3
  • 花4
  • 実2
  • 実3
  • 葉2
  • 葉3
  • 茎2
  • 初夏
  • 発見の経緯
  • 千葉県内自生地の概要

ススヤアカバナ-全体2
千葉県内で初めて見つけた時のもの。
2年目と思われる大きいものは30株ほどあり、そのまわりに1年目と思われるものが50株以上見つかりました。(2014.7 千葉市)

ススヤアカバナ-全体2

2015年のシーズンは周囲の田んぼに拡がって100株以上見られました。周囲には
ノダアカバナも沢山見られました。(2015.8 千葉市)

ススヤアカバナ-全体3

茨城県の標本地付近のもの。狭い範囲で100株以上あり、他の休耕田と異なる様相を呈していました。ここのものを基準に千葉のものを本種としました。(2014.7 茨城県東海村)

ススヤアカバナ-全体4

上部でよく分枝し、上部の側枝は横に伸びる傾向が見られました。
(2014.7 千葉市)

ススヤアカバナ-全体5

放棄田が増えたせいか、近所では自生地、個体数ともに
だいぶ増え、一部では群落を作っています。(2020.7 千葉市)

ススヤアカバナ-全体6

(2020.8 千葉市)


ススヤアカバナ-花

花の大きさは普通のアカバナと変わりはないように感じました。
(2020.7 千葉市)

ススヤアカバナ-花2

萼や子房の外側に短毛が多く見られます。
(2014.7 千葉市)

ススヤアカバナ-花3

柱頭は4裂で裂片は棍棒状。葯が裂開する前でははっきり確認出来ました。
(2018.8 千葉市)

ススヤアカバナ-花4

柱頭に花粉が付いてわかりにくくなっている状態。
(2016.9 千葉市)

ススヤアカバナ-実

果実には4稜が・・・というより、4つの柱状のものを束ねたような形。
果実には毛が多い。(2015.8 千葉市)

ススヤアカバナ-実2

8月中旬頃にもう種子がはじけていました。
(2014.8 千葉市)

ススヤアカバナ-実3

(2020.7 千葉市)


ススヤアカバナ-葉

葉は長楕円状披針形。先は尖り、基部は円形でごく短い柄があるようにも見えました。
茎は抱かない。(2018.8 千葉市)

ススヤアカバナ-葉2

葉表。毛が密生して灰色がかって見えます。
(2017.8 千葉市)

ススヤアカバナ-葉3

葉裏全体に毛が密生。葉脈の毛はやや長い。
(2014.7 茨城県東海村)

ススヤアカバナ-茎

茎には軟毛が密生しています。
(2014.7 千葉市)

ススヤアカバナ-茎2

大きな株は基部で枝を分け、基部は半ば木質化しています。
(2014.7 茨城県東海村)

ススヤアカバナ-春

(2015.4 千葉市)


ススヤアカバナ-初夏

1m近くに成長していますが、この時期はまだ茎も葉もあまり赤みを帯びていない。
(2020.6 千葉市)

「千葉市」と記載したものについては、過去に千葉県内で本種の自生記録がなかったため、地元保護団体を通して千葉県立博物館に同定を依頼しておりましたが、同博物館でも本種と確認した旨、連絡を頂きました。茨城・富山・石川に続き4県目となります。

この件は、2015.2.25 発刊の千葉県植物詩資料29 に掲載されましたが、おそらく紙面の都合で記述の一部に不足があり、この件でお世話になりました皆様の件が記載されておりませんので、ここに改めて経緯を紹介させて頂きます。

2013.9 千葉市内で基部が木質化し、主茎がとても太くて見たことのない姿の枯れた植物を発見。果実の裂けた跡から、正体不明なアカバナ属の不明種とした

2014.5 アカバナ不明種の生育を確認。茨城植物研究会N様よりススヤアカバナの概要を入手(茨城県植物分布ノート(1) 阿嶋隆 茨城県植物研究2 55-56(2009))

2014.7.14 開花を確認、詳細撮影。

2014.7.17 N様の案内で、茨城県東海村の自生地を見学、詳細撮影し確信を持つ。

2014.7.18 独自に千葉市内の自生地の観察会を実施、加曽利観察会の皆様に参加いただき、同会経由で県博に報告し、再同定を依頼。

2014.7.26 同博物館より本種と同定されたと報告を受ける

県博の同定にご尽力頂いた加曽利観察会の皆様にも厚く御礼申し上げます。




本種は比較的最近、渡り鳥によって沿海州から種子が運ばれて拡散したと考えられている種です。
2020.9現在、千葉県内の以下の地点で自生を確認しています。

千葉若葉区6地区、四街道市5地区、佐倉市2地区、
成田市1地区、印西市2地区、栄町2地区
new 多古町1地区

中でも、千葉市内では100株以上が群生している場所が複数あり、自生域を更に広げつつあります。

多古町のものを除き、他は幅数kmのベルト状に綺麗に並び、東京湾口-千葉市-印旛沼-霞ヶ浦-鹿島灘を結ぶ関東平野の風の通り道と一致します。また、確認した数倍の自生地があると思われ、決して珍しい植物ではないと思われます。

確認された自生地はいずれも・・・
・日当たりの良い休耕田、またはぞれと同等の場所で、且つ休耕してから年数の浅い場所、または除草剤を使用せずに冬に草刈りされている場所
・全体として周囲の草丈が40-50cm以下で植生が密ではなく、ヨシやススキ、セイタカアワダチソウ等が侵入していないこと
・雨が降ると浸水するけれど、水が引けばぬかるむ程度の場所であること、乾地では育たない。

最初の発見から7年足らずで、時間の経過とともにヨシなどが侵入して、見られなくなったり場所が移動したりしていますので、自然状態では同じ場所で長期間定着することは希と思われます。
その意味では、千葉の風土に完全に合致した植物ではないかもしれません。また、新たな休耕田が毎年のように生じる都市近郊に自生地が多いのは、皮肉とも言えます。

追記 2020.8 ススヤアカバナとアカバナの交雑と思われるものを確認しました。定着したことにより、雑種が生じたと思われます。