(雑) タカオワニグチソウ

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クサスギカズラ科 Asparagaceae
ユリ科 Liliaceae
ワニグチソウナルコユリの交雑種、若しくは交雑起源と言われるもの。
(観察による記述)
茎は長さ40cm前後、稜はありません。葉は8-14cmの披針形~長楕円形で、葉裏は白く、脈に低い粒状突起があるが、小脈は平滑に近い。
花は葉腋から下がる柄に1-3個付き、小花柄の基部に披針形の小型の苞が付きます。苞は10-15mm、幅5mm前後で先が長く尖り、反り返る。花は長さ20-22mmほどで形はワニグチソウよりやや細いつぼ状筒形、花糸の離生部分はワニグチソウに比して長く、扁平に膨らみ、低い凹凸が見られますがワニグチソウにような顕著な突起はない

(観察スペックの詳細は「スペック詳細」タブに記しました)
母種・父種との比較ページを作りましたので、こちらもご覧ください

*1 学名は交雑種として記しました
*2 千葉は本件が初めての発見

 

2018.5.9 作成
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タカオワニグチソウ-全体

全体の姿はナルコユリによく似ていました。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-全体2
背景もみな本種。狭い範囲に数百株が密に群れていました。その周囲にはワニグチソウ
100株程度、そこから5mほどの場所にナルコユリの一群がありました。
状況からは母種ワニグチソウ、父種ナルコユリと想像されました。(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花

ワニグチソウより花付きは良いが、ナルコユリほどには付かないようでした。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花2

花は1-3個ずつ付き、花の長さ20-22mm、小花柄の基部に披針形の苞が付き、
苞は反り返ります。形はワニグチソウより細い壺状筒形。(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花3
花を縦割りにしたもの。
花糸離生部は、概ね花糸全体の1/3ほど。ワニグチソウより明らかに長い。
離生部の膨らみは扁平なので真横から見ないとわかりにくい。(2018.5 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花4

花糸の離生部分。低い凹凸が見られましたが、ワニグチソウのような
三角状の顕著な突起とは明らかに異なる。(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花5

子房、花柱いずれも平滑。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花6

苞は披針形で平滑、著しく反り返る。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-花7

苞の裏面。マクロで見ると小脈が僅かに浮き出ていましたが、突起は見当たらない。
肉眼では小脈も含めほぼ平滑に見える。(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-葉

葉は披針形で8-14cm。ナルコユリより少し太く、幅2.5-3.5cm。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-葉2

葉裏。小脈はあまり浮き出ていませんでした。
(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-葉3

脈上には粒状突起があり、小脈にもあるように見えますが、
ごく低くてほんとんど平滑。(2018.4 千葉県B)

タカオワニグチソウ-茎

茎に稜はありません。
(2018.4 千葉県B)

この種は名はよく知られていますが、スペックは周知されていないために誤解が多く、筆者も全てを知りませんので、以下、観察スペックの詳細を記します。基準標本とは多少異なるかもしれませんので、お含み置きください。

・見た目の印象はナルコユリにワニグチソウの花が付いたイメージに近い。
・茎は40cm前後で中部以上は斜上気味になり、弓なりにならない。断面は円形ではないが、稜といえるほどのものはなく、滑らかで無毛。
葉は披針形~長楕円形で長さ8-14cm、ナルコユリより少し幅が広く、2.5-3.5cm、鋭頭、基部はくさび形~鈍形、無毛。葉裏は白っぽく、脈上に粒状突起があるが、小脈はさほど隆起せず、小脈上にも小突起はあるようにも見えるが不明瞭で、脈間は肉眼では平滑に見える。
・花序は葉腋から2cmほどのの柄が弧を描いて垂れ下がり、柄の基部は茎に合着しない。柄にふつう花が2個ずつ、時に1個または3個付く。3個の場合は柄が再分枝する。小花柄は5-7mm、基部に苞が1つずつ付く。花が1つの時もワニグチソウ同様、苞が2つ見られ、3つの時は再分枝した基部にもう1つ苞が付く。
苞は披針形でやや小さく、10-15mm、幅5mm程度、先は長く尖り、著しく反り返る。苞の両面は中肋を除きほぼ平滑、縁は全縁だが、クチクラ層に極めて微細な単細胞の突起が見らる。上部の葉腋に付く花ほど苞は小さくなる傾向があるが、全てがそうではない。
・花は長さ20-22mm、形はワニグチソウよりやや細いつぼ状の筒形。花被片は合着し、先は6裂で緑色。子房は無毛、花柱は平滑でワニグチソウより少し短く、花冠から飛び出ない。花糸の下半2/3は花冠に合着し、上半の離生部はワニグチソウより少し長く、扁平に膨らむが、ワニグチソウより膨らみは少し小さく、凹凸が見られるが、ワニグチソウのような顕著な突起ではなく、毛もない
・稔性は極めて悪く、1%を遥かに下回ると思われ、不稔といえるレベル。
現地の状況は全て栄養繁殖に見えた。
・花期はワニグチソウより僅かに早いか同時期と推定。

追記 : 東京・高尾山のものは、千葉のものに比して苞が長い傾向があるようです。交雑種のため、ある程度の差が生じるものと思われますが、ほとんどが栄養繁殖のため、それぞれの地域ごとでは形状は安定しているのではと思います。



同定は千葉県博にお願いいたしました。 (2018.5.6 全体、部分および等倍撮影の写真による判定、後に同博依頼により標本を作製し同定)
この属の植物は花糸の形状が決め手となります。0.1mm以下の観察となりますから、ルーペではやや苦しいですが、同倍マクロレンズがあればフィールドでも観察できます。

以下の文献は現在のアマドコロ属の分類を決定づけた論文で、本種もこの研究により、雑種と判明しました。各種の花糸の形状が写真付きで詳細に掲載されており、大変参考になります。 (英文なので私は訳に苦労しました。)

参考資料 アマドコロ属植物(ユリ科)の種生物学的研究 : II.日本及びその隣接地域産の種の花糸の形態 (田村実) 植物分類,地理 42(1), 1-18, 1991


なお、ワニグチソウとナルコユリが共棲する場所では、低いながら一定の確率で本種は存在する可能性があり、見逃されている自生地はもっと多くあると思われます。ただし、種子繁殖はしないか、しにくいと思われますので、1つ1つの自生地は、数m範囲と極めて狭いことが多いと思われ、気づきにくいことも事実です。

なお、残念ながら、この自生地は開発により、まもなく消滅すると思われます。
数百株の大きな群落だけに大変残念です。

追記 : 山形県博に保存されているワニグチソウの標本の一つは、本種のように思いました。花の内部構造までは見ていませんが、苞や葉の形状が本種と一致します。