学名の見方7


7.広義・狭義・異分類


7.広義 狭義 異分類

1) 広義とは

複数の種をまとめて呼称する必要がある場合に用いられます。具体的には、種が細分化されたり、識別が困難で誤認識が多かったりする場合に使われ、名称は正式に定義されています。

例 : ハクサンイチゲ(広義) Anemone narcissiflora
  エゾノハクサンイチゲ Anemone narcissiflora subsp. crinita var. sachalinensis
  ハクサンイチゲ Anemone narcissiflora subsp. nipponica
  ヒメハクサンイチゲ Anemone narcissiflora subsp. nipponica f. graciliformis
  ミドリハクサンイチゲ Anemone narcissiflora subsp. nipponica f. viridis

通常、種以下のレベルの「広義」は、種、亜種、変種のいずれかのレベルで、同一の名でなければなりません。

広義が定義されていないもので、文書上でより明確に広義を宣言したい場合は、次のように記すことが出来ます。

例 : Hepatica nobilis Var.japonica s. l. (ミスミソウの広義・・・オオミスミソウ、スハマソウ、ケスハマソウ を含む)

これで Hepatica nobilis Var.japonica より下位のもの全てが含まれます。
s. l. はsensu lato の略です。
また、和種名でも慣習的に使用されています。

例 : ミスミソウ s. l. (環境省絶滅危惧リストなどでもこの用法が使われている)

なお、「広義」と少し違いますが、品種を持つ母種は、すぐ上位にあたる母種名に品種が含まれます。上記で ハクサンイチゲ Anemone narcissiflora subsp. nipponica だけを記した場合、ヒメハクサンイチゲ、ミドリハクサンイチゲもこれに含まれます。

2) 狭義とは

植物は個体差もあり、ある程度の幅を持たせて定義されていますが、それを厳格に定義したものが狭義です。
複数の種を統合して新たな定義にした場合などで、元の1種だけを指定する場合や、特定の変化型を抜き出したり除外するような使い方のようです。これも正式な学名になっています。

例 : アズマイチゲ  Anemone raddeana
  シラゲウラベニイチゲ (狭義)  Anemone raddeana f. raddeana

狭義は母種と異名とは限らず、同名の場合もあります。

例 : ショウブ Acorus calamus
  ショウブ (狭義)  Acorus calamus var. angustatus


また、こちらも一般的に狭義を示す記述ルールがあり、s. str. (sensu strictoの略) を付記します。
( 筆者は具体的用例を見たことがないので、応用・例示できません。)

3) 異分類とは

本来の分類体系と異なる学名のものです。通常、新たな学説などに伴って、下位の種も全て学名を変更しますが、されずに取り残されてしまった場合などに見られます。論文著者がその種を認めていないとか、その種を確認できなかった、何らかの疑義が生じている、異なる論文を準備中である・・・などの場合のようです。

異分類は、過去の学名を比較するとよくわかります。
下記は、モミジカラマツの小種名が変更されているのに、ミョウギモミジカラマツが取り残されて、異分類になっています。

例 :   以前の学名 → 変更後の学名
  モミジカラマツ Trautvetteria japonica → Trautvetteria caroliniensis var. japonica
  ミョウギモミジカラマツ(異分類) Trautvetteria japonica f. breviloba → (対応する学名がない)

ミョウギモミジカラマツは、本来ならば Trautvetteria caroliniensis var. japonica f. breviloba となるべきなのでしょうが、そのような学名は見つかりません。種として否定されているわけでもなく、親子が違う名字になってしまっているような感じです。

異分類のものは、決して忘れられているわけではなく、それなりに理由があるはずなので、他と整合性のある学名に勝手に変換してはいけません。