学名の見方8


8.synonym・別名


8.synonym 別名

1) synonym

近年、遺伝子レベルの評価が行われるようになり、それに併せて記述内容が追加・変更されたり、種の統合や細分化も進んでいます。その結果、学名もその都度更新されています。
これによって使用されなくなった学名、異論の学名などを同種異名=「synonym」と表現し、最も支持されているものを「標準」と呼びます。
(「標準」や「synonym」は普遍的なものではなく、分類学者ごとに異なる場合があるかもしれません)

synonym からは 過去の様々な経緯を読み取る事が出来ます。

  以前 → 現在  
ヤハズヒゴタイ Saussurea triptera → Saussurea triptera 以前と同じ
Saussurea triptera var. triptera → (synonym)  以前のヤハズヒゴタイの学名
Saussurea triptera var. major → (synonym)  旧和種名:ミヤマヒゴタイ
Saussurea triptera var. minor → (synonym)  旧和種名:タカネヒゴタイ

現在、ヤハズヒゴタイは、ミヤマヒゴタイとタカネヒゴタイを含めたものであり、この2種は現在は種ではなくなった(ヤハズヒゴタイが変化した1タイプである) ことがわかります。

ここで気をつけなければならないのは、「1」と「3」.「4」を組み合わせて使用することは出来ません。学名にはセットがあり、異なるセットを組み合わせて表記すると矛楯が生じます。もし、ミヤマヒゴタイ、タカネヒゴタイを別種としたいのであれば、ヤハズヒゴタイは「2」の学名を使用しなければなりません。

この場合は非常に単純なのでわかりやすいですが、複雑なケースも多く、全ての種において同時期の学名を使用しないとすぐに矛楯は発生します。セットの確認は、引用などを確認するのが本来かと思いますが、著作者名などでもある程度見当が付きます。全ての種の学名を同一の出展から得ると、この煩わしいから開放されますので、y-Listは大変便利です。

なお、セットの一部は、このサイトの各科に添付している和名-学名対照表に記載していますのでご利用ください。(学名索引からも利用出来ます)

2) 別名

種が統合されてsynonymとなった種の和種名などは、別名となります。
分類学でいう「別名」は、日常用語の「別名」とは異なり、「旧名」に近い用い方になります。

例1 :    以前 → 現在
  ハクサンタイゲキ  Euphorbia togakusensis → Euphorbia togakusensis
  オゼヌマタイゲキ  Euphorbia togakusensis var. ozensis → (synonym)

オゼヌマタイゲキは、最近、ハクサンタイゲキと同じものであるとされ、Y-Listでも、ハクサンタイゲキと「別名」と記載されています。

   呼び方
以前からハクサンタイゲキのタイプ  O ハクサンタイゲキ X オゼヌマタイゲキ
以前オゼヌマタイゲキと呼ばれたタイプ  O ハクサンタイゲキ O オゼヌマタイゲキ

以前ハクサンタイゲキと呼ばれたものに、別名のオゼヌマタイゲキの名を用いることはいささか問題があります。
種が統合されて時間がたっていない種では、多くの図鑑などがまだこの2種を異種としていますので、誤解が生じやすくなります。
「別名」の目的は、オゼヌマタイゲキと呼んでいたものがハクサンタイゲキに含まれることを示すものであって、従来からハクサンタイゲキと呼ばれたものをオゼヌマタイゲキと呼ぶことは出来ません。

さらにこんなケースもあります。

例2 : ウマノアシガタ  Ranunculus japonicus 別名:キンポウゲ
  キンポウゲ  Ranunculus japonicus f. pleniflorus  

本来のキンポウゲは、ウマノアシガタの八重咲きを指します。が、ウマノアシガタの別名にもなっており、ウマノアシガタの名をもって八重咲きのキンポウゲを含めるという意味の別名だと思われます。従って、安易にウマノアシガタをキンポウゲと呼ぶと、普通のものか八重咲きを指すのか判らなくなってしまいます。
もっと早い段階でキンポウゲ(f. pleniflorus) を「ヤエキンポウゲ」とでもすればだれにも誤解は生じなかったと思いますが、今となっては手遅れですね。

ただし、次のような場合は問題ないと思われます。

例3 : ゼンテイカ Hemerocallis dumortieri var. esculenta 別名:ニッコウキスゲ

ニッコウキスゲに相当する学名がかなり遡っても見当たりません。また、「ゼンテイカ」よりむしろ「ニッコウキスゲ」のほうがよく知られた名になっています。誤解が生じる恐れが全くありませんから、別名の使用には何の配慮も必要ないと思います。
本サイトでは、別名のほうが一般によく知られて、且つ誤解の生じない場合は積極的に別名を使用しております。

和種名は種を表示する最も重要なスペックの1つですから、誰にも誤解を与えないものを選択することが最も得策です。少なくとも、別名とされる形状のものをsynonymから探し出せるようなものは避けた方が良いようのではないでしょうか。30年以上前の誤った別名の使用により、未だに誤解が横行している種もありますから、別名を使用するには充分な配慮が必要だと思います。

このサイトでは、例3のようなもの以外では種のページには別名は掲載せず、別名の元となった形状のものを「別形状」として別掲しており、表題では「・・・の別形状」と記しているものがそれに当たります。