学名の見方9


9.活用2


9.活用

1). 母種名を呼称できる範囲が一般感覚と相違する例

以下は一般的にシロヨメナの仲間とされるものです。

例 : シロヨメナ
Aster ageratoides var. ageratoides
  タマバシロヨメナ Aster ageratoides var. ageratoides f. ovalifolius
  サガミギク Aster ageratoides var. ageratoides f. purpurascens
  ケシロヨメナ Aster ageratoides var. intermedius
  キントキシロヨメナ Aster ageratoides var. oligocephalus
  ナガバシロヨメナ Aster ageratoides var. tenuifolius
  アキハギク Aster sugimotoi

タマバシロヨメナとサガミギクは、シロヨメナと呼称しても誤りではありませんが、シロヨメナの名が付くキントキシロヨメナやナガバシロヨメナなどはシロヨメナとは呼べません。
Aster ageratoides の名を使えば、アキハギク以外が含まれますが、和種名は使えません。この名に対応する広義を設定しないと和種名が付与できないためで、「シロヨメナの仲間」という曖昧な呼び方で誤魔化すしかないようです。
なお、アキハギクは学名からは別種と読み取れ、一般的な感覚と相違しており、学名での確認の必要性を感じます。
(あくまで、現時点で明示されている範囲でのことですから、将来この仲間に入るのかもしれません)

2). 学名と和種名が入れ替わる例

synonymを追いかけていくと、異なる時期に同じsynonymの学名が異なる和種名で見つかることがあります。
以下、フクジュソウの例です。説明の都合上、和種名フクジュソウの和種名に番号を付与しています。

例1        
1970年代まで
 
2000年前後まで
 
現在
フクジュソウ
(*1)
Adonis amurensis  →  キタミフクジュソウ Adonis amurensis  →  キタミフクジュソウ Adonis amurensis
  フクジュソウ(*2) Adonis ramosa  →  フクジュソウ(*3) Adonis ramosa
  ミチノクフクジュソウ adonis mutiflora
シコクフクジュソウ Adonis shikokuensis

当初、フクジュソウ(*1)と呼ばれたもののスペックは、現在のキタミフクジュソウを指し、後にフクジュソウ(*2)が分かれてミチノクフクジュソウとシコクフクジュソウが追加されたと読めます。
最初に登録されたA.amurensisの標本がキタミフクジュソウに相当し、且つ多くの人が見ているものが A. ramosa だったため、「フクジュソウ」の和種名を A.amurensis から A.ramosa に変更したようです。従って、1970年代の図鑑を使用してフクジュソウ=Adonis amurensisとすると、逆になってしまいます。

さらにミチノクフクジュソウが分けられましたので、1990年代当時にフクジュソウ(*2)を同定したとしても、今日ミチノクフクジュソウである可能性を否定できないかもしれませんし、そもそもよほど詳細に見ていない限り、第三者には信じてもらえないかもしれません。

統合で入れ替わるケースもあります。

例2  ミズオオバコ Ottelia japonica  →  Ottelia alismoides ミズオオバコ
オオミズオオバコ Ottelia alismoides  → 


ミズオオバコはオオミズオオバコのsyninymとなり統合されましたが、和種名はミズオオバコの名が使用されてあたかもオオミズオオバコがミズオオバコのsynonymとなったように見えます。
おそらく、学名においてはOttelia alismoidesの論文がOttelia japonicaより先に公開されているため、先取権が与えられ、一方、日本ではミズオオバコが多数、且つ名が周知されていることから、このようになったと思われます。が、学名を記述せずに「ミズオオバコ」とした場合、japonicaの範囲なのか、alismoidesの範囲なのかは判りません。

このようなケースは、古い図鑑を使って確認すると誤ってしまうことがあり、最新の学名での確認が必要です。